前回のエントリーでコクの第一層(コアのコク)、第二層部分については書いたので、第三層について触れてみたい。伏木さんはコクには作る人や食べる人の精神性が反映される部分があると言い、それを第三層のコクと呼んでいる。
3. 第三層のコク
第三層のコクにも食の味わいを入れるとすると、極限にまで要素を削り取って味わいの中に精神性を重視したコクが該当するでしょう。実体にこだわらない精神性が第三層の特徴で重要です。例えば料理人が腕によりをかけた吸い物などです。日本の料理人が目指してきた究極のコクだと思います。もはや抽象のコクと言えます。味わう者の精神世界に大きく依存するコクです。 上品な吸い物は、それ自体の栄養価は高くありません。濃厚なコクがあるとも言えません。しかし、余分なものが削ぎ落とされたものの中にコクの純粋な形が感じられます。 微かな手がかりや痕跡です。感じる側が訓練されてこそ隅々まで味わえるようなものです。いわば、修練のコクとも言えます。修練をしていない者には「何だ、この薄味の吸い物は。おーい醤油をくれ!」と言いたくなる味かもしれません。しかしある程度和食に通じた人は、こういうギリギリのところに何とも言えないコクを感じるわけです。(P142)