2013年8月14日水曜日

日系飲食店のSNSを活用した海外展開事例- Toronto, Kinton

トロントではラーメンが大流行りである。お寿司屋さんであったはずのお店が「ラーメン始めました」みたいなサインを出していることも珍しくない。ラーメンだけでなく日本食自体がほんとに流行ってるな、という感じだ。トロントのラーメン屋さんはいくつかあるのだが、その中の一つKintonを事例に海外に日本食が出て行く際のSNSの活用について考えてみたい。

Kintonは2013年8月12日現在でFacebookの「いいね!」が4,815、twitterのフォロワーが5,388となっている。トロントには同等クラスのクオリティのラーメン屋さんとして認識されているお店が他にも数件あるのだが、競合と比較してみても圧倒的なSNS上での注目度の高さとエンゲージメントの高さを誇る。Kinton Quest というFacebookアプリもあるみたいだが、最近はやる人もあまりいないんじゃないかと思われるので、 Kintonのfacebook上で展開されているイベントとしてKinton Bowlerに注目してみたい。



Kinton Bowler は、どうやらラーメンの麺のみならずスープまで飲みきった人が、Kinton Bowlerとして認定され、さらにどんぶりを横倒しにして底を見せながら笑っている写真をfacebookにアップされるということの繰り返しなのだが、これが中々良い感じだ。「ラーメンのスープを飲みきるなんてそんな体に悪いことを!」なんて野暮なことは言わず、とにかく皆さん完食してうれしそうである。コレステロールや塩分の取り過ぎを気にしていてはKinton Bowlerにはなれないようだ。
また、Kinton Bowlerには1times、10times、30times、50times、100times、500times、1000timesとレベルがあって、1timesだと下記の認定証(どんぶり部分に名前付き)がもらえるだけだが、10timesだと餃子、30timesだとKintonタオル、50timesだとKinton Tシャツ、100timesだとKinton どんぶり、500timesだと500ドルの商品券、1000timesだと1000ドルの商品券がもらえるようになっている。こうやってみて見るとポイントカード的な意味合いとか割引率は低いのだが、順調にいいねを増やしつつ高いエンゲージメントを維持している。



では、彼らが成功している要素はなんだろうか?AIDAを活用して考えてみる。簡単にAIDAについて説明すると(知っている人は読み飛ばしてください)、ヴェルディのオペラのことではなくて基礎的なマーケティング用語の一つである。顧客の購買決定プロセスを考えることで適切なプロモーションを考えるのに使う。「A=attention 関心」、「I=interest興味」、「D=desire 欲求」、「A=action 行動」を意味していて、詳しくは下図。似たような概念としてAIDMA、AISAS、AIDCA、ソーシャルな観点を強調したSIPSなどがあるので興味がある人は調べてみるとよいと思う。


ここで大切なことは下記二つである。

1. 各フェーズにおいて有効なプロモーション手法が違うということ
2. 1.だということは最終的な顧客のアクションを起こしてもらうまでに、どこのフェーズがボトルネックになっているのかを理解して、そこを治さなければそれ以上先のプロセスをいくらがんばっても最終成果にはつながらないこと

ここら辺を勉強されたい方は下記を参照されるとよいと思う。薄いし、非常に分かりやすい。なんで絶版なんだろう。

ケースで学ぶマーケティングの教科書/岡本 泰治、西田 徹

この流れで考えるとKinton のFacebookキャンペーンはどのように設計されているだろうか。

1. Attention
トロントではかなりラーメンが流行ってるみたいなので、メディア露出も結構あるようだ。したがってAttentionとしてはPR活動とあわせて、Facebookの活用が考えられているのだろう。彼らのポスティングの特徴として、高いタグ付け率がある。結構な比率でお客さんが画像にタグ付けされており、プライバシーにあまり厳しくない人ではそのまま本人のフィードに画像が表示されてしまっているだろう。例えば下記の100times達成の例だと4人がタグ付けされている(+スタッフ一人)。もっと多く見えるのだがよく見ると、下記のfacebookページではない「人たち」が必ず含まれている。
ちなみに上記の画像、いくつかBolwerになっててスペル間違ってる・・・

お客さんのタグ付けは直接フィードに流れることもあるのでAttentionにもなるだろう。しかし多くは実店舗とメディア露出なのではないか。

2. Attention→Interest
知ってもらった後にさらに興味を持ってもらう一つの方法としてfacebook上で「いいね」を押してもらって情報を流し続けることがある。でもネット上で何かしているというよりは、これ実際はかなり店舗で「いいねしてね!」と押してるのではないかと思う。1週間の「いいね」増加数が30−80の間でだいたい50−60くらいなのでKinton Bowlerになってる人の数と似てるのかも。Kinton Bowlerになる過程で「おめでとー!」とか言われながら写真取られたりしてる間にラポール(相互を信頼し合い、安心して自由に振る舞ったり感情の交流を行える関係が成立している状態)がかかっておしちゃうんだろうなー。 

3. Interest→Desire→Action

「いいね」してくれた人にお店に行ってみたい、と思わせるのに、Kintonのfacebookのコンテンツはよく考えられている。
<コンテンツ>
コンテンツとしては次の3つがある。
 1.  ラーメンの写真
 2.  Kinton Bowler のアルバム
 3.  従業員紹介

1.  ラーメンの写真はオフィスでお腹が空いたころに見ると、なんとも刺激される。頻度としては日に2,3回ポストされている。スタッフのオペレーションとしてfacebookへのポスティングがきちんと業務に組み込まれている。
2. Kinton Bowlerの写真は一つ一つの写真がアップされるのではなく、アルバムとしてアップされている。そしてそれが毎日のように写真追加という形で更新されている。
中にはこのスープ「飲みきり」を100回もやったというDavidさんに至ってはその瞬間がビデオにおさめられているのだが、なんとも誇らしそうである。次は500timesやると宣言までしちゃってまいる。Kinton Bowlerには結構女性もいて、日本の女性であれば「ラーメンのスープ飲みきるなんて!」と恥じらいそうなところだが、トロントニアンにとっては普通なようだ。

キャンペーンの仕組みとして段階を持たせることで、ゲーム感覚を持たせると同時に、達成意欲を刺激している。自分の友達が一生懸命スープ飲みきって、人にほめられたり、コメントされたりしてるのを見たら、自分もやりたくなる人もいるだろう。いいねしている人の年齢層が18-24と若いあたりも、若者のノリにかなり訴えてる気がする(ただし北米のfacebookユーザー層も同年代)。企画の構成上、何回目かを把握するためにお客さんの名前という個人情報もすんなり取得できる。その流れとしてタグ付けしていいですか?とも聞きやすいはず。


<Kinton のfacebookオペレーションに学べること>
・適切な時間に適切な頻度でポスティングをすること
・スタッフの業務としてきちんと組み込み、習慣化させること
・キャンペーンはシンプルで分かりやすいものにすること
・写真へのタグ付けを、お客さんに恐れずに聞くこと。忙しくても聞くこと

<日本食レストランが日本人スタッフで展開する際に参考になること>
企画が特に説明がなくても画像イメージだけで理解がしやすいので、ブログに比べるとワーホリとかで来ている日本人スタッフもやりやすいだろう。シンプルである、ということはコミュニケーションが定型化しやすいので、覚える英語も少なくてすむはず。勉強になるなー。

ケースで学ぶマーケティングの教科書/岡本 泰治、西田 徹

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