2013年6月20日木曜日

自分の頭の中を正確に伝える能力がない人の4つのパターン

 とりあえずの国語力/石原大作

「自分の頭の中のことをできるだけ正確に伝える」ということは、簡単なようでとても難しい。


前職で論理的に考えを表出することを徹底的に鍛えられた。そのことの価値を十分にわかってきたつもりだけど、役職が上がるほどこれに気をつけていないと組織全体の生産性を大きく毀損してしまうのではないか、ということを特に思うようになった。かつ、問題は論理性だけではない。頭の中が整理できていてもそれを伝える時に変なことになってしまう人が結構いる。そしてコンサルタントの仕事には、考えをわかりやすく表出することに慣れていない上級管理職の考えを言葉として整理してあげることも含まれる。そこにお金を払ってもらえるのはよいが、人が介さないとわかりやすい指示/メッセージングができない、というのはやっぱり効率が悪い。


伝える力が低い、という人には下記二つの原因がある。

※ここで「伝える」ということの意味合いは、論理構造を相手にわかりやすく伝える、という定義とし、感情を感情として伝える、という意味は除く(これもとても大切なことだけど)

1. 論理的に考える力が弱い 

2. 言葉の使い方に厳密さがない

伝える力が弱い人は1. もしくは2. のいずれかができないか、あるいは両方ができない。1. については問題意識も一般的に高く「ロジカルシンキング」とか「ピラミッドストラクチャー」とか、「MECEになってないよ、それ」というツッコミとか、仕事をしてて聞かない日はないような気がする。書籍もたくさん出ている。


一方、「2. 言葉の使い方に厳密さがない」という事象については結構見逃されているように思う。しかし
おそらく、「2. 言葉に対する厳密さ」の欠如は「1. 論理的に考えること」の精度にも大きく影響を与えているはずだ。したがって「2. 言葉の厳密さ」 について少し考えてみたいと思う。



言葉に厳密さがないケースには次の二つがある。

A. 自分の話していることの対象範囲がわかっていない、あるいは明示できないケース

B. 言葉の使い方が一般とずれているケース

A. についてはさらに下記二つのパターンがある。


A-1. 前提条件の違い

実際は頭の中でいろいろ想像しているのに、口では「A」としか言っていない場合である。つまり、頭の中で無意識に勝手な前提を置いている。前提を置く場合はこれを明示する必要があるが、その前に自分自身が無意識に置いている前提に気づけるように訓練をする必要がある。

A-2. 異質なものの同質化
実際はいろいろな話が混じっているのに、口ではA」としか言っていない場合である。つまり、話中に様々なものが混じってしまっている。この場合は、話を整理する必要があるがまずはカテゴライズをすることから始める。

B. についてはいろんなケースがありうるのだが、今までに体験した例でいうと下記二つのパターンがある。

B-1. 言葉を自分なりに定義し直してしまう

全体の話の整合性がどうも合わないのでひも解いていくと、「ABC」と言っている言葉の意味を、実は一般的な語法と違う意味で使っている、というケースである。順に確認していくと、「違う、この言葉はここでは、〜という意味で使っている」という回答が返ってくる。確かにそういう理解をすると意味が通らなくもないのだが、そこまで定義を変えてしまうと全く意図と違うことを言っているように聞こえてしまう。定義を変えるのであればそれを明示した上で使う必要がある。

B-2. 言葉を「創造」してしまう

なんだか聞いたことがあるようなないようなカタカナ言葉を話しているので、何だろうと確認をすると、オリジナルの言葉だった、ということがある。このケースはあまり遭遇しないのだが、たまにいらっしゃる。その人の癖のようなものだ。
言葉を新たに作るのであれば、当然定義を明示してあげないと聞いている方は意味がとれない。

いずれにしても共通して足りないのは、聞いている側への思いやりだ。仕事をしていく中で、特に新卒の時代にこういう姿勢は徹底的に叩かれて治しておくべきことなのだが、そういう文化がない企業で育ってしまうと身に付かない。論理的であることや、紙に落としたときに書いた人がそこに行って説明しなくても皆が同じ理解になるように最低限のレベルを整えることは、組織の生産性に大きく影響してくることが上層部に理解されていないからだ。

<言葉の厳密さの無さが引き起こす問題> 
言葉に厳密さのない人の下で働く、ということは多くの無駄を発生させながら仕事をする、ということだ。また、それを許す組織も無駄が多くなる。では何が無駄なのか。

・よくわからないので、必要以上のことをしてしまう

投げられた指示を遂行するにおいての権限の大きさや、方針、期限、品質に対する期待に対する理解が不十分な時、部下はどうするか。たいていの人は、どこまでやったらOKかわからないので、自分のできる限りの事をしようとする。わからない事の不安から徹夜するような人も発生する。しかもその方向性がずれたりしていると最悪だ。一定作業した後に見せたものの出来が悪く、怒られて、さらにもらった指示が理解できず、次のレビューでまたしても怒られる・・・という繰り返しをしている人の作業を途中から支援したことがある人もいるはずだ。
確認しない部下が悪い、ということも言えるのだが、わかりにくい指示を出す方にも問題がある。また、最悪なのは間違って理解してそのまま業務を遂行してしまうことだ。これも「理解力」の低い部下のせいにするのは簡単だし、程度の問題でケースにもよるだろう。しかし、あなたの部下がいつもそういう問題を引き起こすなら、自分の伝え方について一度見直してみたほうがいい。悪いのはあなたの伝え方かもしれない。

・よくわからないので、その人の論理が検証されにくい

「よくわらかないけれど、偉い人が言っているから正しい」という意思決定がされることは往々にしてある。一番の問題は、事の本質を隠してしまうことだろう。喧々諤々の議論といのは議論されている中身の明晰さがあって初めて生産的なものになる。

・非効率な仕事の仕方は再生産される

上司が自分の言葉に厳密さをもった人でないと、下についた人も同じようなあいまいな言葉使いで仕事をしてしまう。当然、言葉の厳密さに重きを置く人は育成されない。役職が上がるほど、下への影響は大きくなり、良い影響も悪い影響も広がってしまう。

下記の本は論理的にドキュメンテーションをするという訓練を受けたことのない、日本企業の中間管理職こそ読むべき本だと思う。海外の大学では、文章の作り方を論文を書くにあたって丹念に訓練される。なぜ日本の教育で同様の訓練がされないのか、本当に謎だがわかりやすく伝える技術は言語力と合わせて、重要なスキルだ。

特に海外でマネジメントをする際には、相手は「あうん」の呼吸では働いてくれないから、「論理性をもとにしたわかりやすさ」の重要性は高まる。そしてそれは論理構造のみではなく、言葉の選択の問題でもある。


 とりあえずの国語力/石原大作


下記はコンサル業界に入ると、多くの人が読む本ではあるが、少し冗長でもあるので上の本のほうがいいかもしれない。


 日本語の作文技術/本多 勝一

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