2013年6月16日日曜日

書評:サイゼリヤの至った境地-徹底的な改善の先にある効率性を飲食業で実践する

おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ/正垣泰彦

うーん。この本、学べるポイントが多すぎる。特にプライシングについては秀逸。プライシングのみならず、経営に対して、全体的にかつ個別事項に関しては極めて細かくアプローチすることで経営効率の飛躍的な改善を図ると同時に、そこから競争優位性を生むことができるという王道をやりきった人、という印象。

食品産業のあり方として地産地消のものを食べよう、正当な価格を農家に支払おう、という新しい哲学が一部で台頭してきていて、それとは相容れないものだけれど、サイゼリヤの事例は彼らにとってもその全体のシステムを設計するにあたって有益なものだと思う。好き嫌いはありそうだけど。

そしてこの人は「ペガサスクラブ」の渥美さんに師事している人なんだなあ。シリコンバレーの起業家の生態系を日本では稲森さんの盛和塾とか、こういうコンサル系の人がやっている企業クラブみたいなものが代用してきたのかもしれない。

プライシングについて
正垣さんは下記のように言う。
いくら掛かるか分からないという状態は、消費者に強いストレスを与える。しかし、こうした苦痛は、商品の値付けを工夫することで取り除ける。ポイントは商品間の価格差を広げすぎないことだ。- 価格差を2倍以内にとどめておくと、どれを頼んでも無茶な金額にはならない(P35)
消費者がストレスを感じずに払える金額は朝昼夜で異なる。比率は朝昼夜の順で1:2:4。普段の昼食に500円使う人は、夕食は1000円まで、朝食は250円までならストレスを感じずにお金を払えるという傾向にあるわけだ。(P36)
経営をやってきた人ならではの具体的な数値。この本はこういう具体的な数値に基づく多くの記述で満ちている。

消費者に対するこの本を使った会社としてのアピールとしては「安いけれど優れた材料を提供していますよ」というところか。事実、納入された品物に対する検査は検数ではなく検質であるべきでそれができるのは小さな業態では経営者しかいない、という哲学などは非常に勉強になる。実際、原価の低減における利益率の向上を図るようになったのはサイゼリアが500店舗を超えてからのようだ。

仕入れで最も大切なのは、とにかく安く買うことではない。 では、何が一番大切かといえば、仕入れ業者との間で、納品してもらう食材の品質について下限を決めることだ。つまり、事前に決めた一定の水準を下回る食材は持ってこさせない。もしも、基準以下の食材を持ってきたら返品し、代わりの品物を必ず持ってきてもらう。約束は契約書にもきちんと書く。品質の下限とは「こんな食材を使った料理は、お客様に出せない」と、あなたが感じる品質のことだ。 具体的には、食肉なら色、香り、固さ、スジの比率は何%以内。脂の量はこれくらいといったこと。野菜も色、大きさ、香り、収穫時期、保管時の温度などを決めておく。(P98)
この他にも、新規店舗のオープンなどの際の投資効率の考え方、ROIの基準、運営に置けるKPIの設定方法、他店のリサーチにおける方法論などかなり具体的に勉強になる。

経営者にとってこういう情報を社会に提供する動機って何なんだろうか。これらの情報を公開しても競合がサイゼリアを超えられる訳ではない。ここに書かれていること以上の工夫と効率化の歴史をこの会社は持っている。 。。ときっと著者は思っているはずだ。 スケールに資本力が必要な飲食だからこそのことかもしれないが、「俺の」に比べると若干、競合にとってのコピーの難易度が低い気がする。


おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ/正垣泰彦

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