2013年9月4日水曜日

飲食店の売上貢献度は立地が7割、中身が3割

最新版 これが「繁盛立地」だ! ―人が集まる、だから儲かる/林原 安徳

非常に読み応えのある本。店舗を探している人は読むと学べることが多いはず。元日本マクドナルド出店調査部チーフの筆者が体系的に立地に関する考え方を教えてくれる。どんなことにも論理的な道筋をたてて検討することで見えてくることがある。優れた直感やクリエイティビティは突然訪れるものではなく、論理的な考察の先にやっと到達できるものだと思う。自分の専門について専門外の人の思いつきを聞いて「うーん」と思った経験がある人も多いはずだ。素人の創造的なアイディアに価値はなく、玄人の素人発想からくるアイディアにこそ価値を生み出す創造性が含まれている。だから、飲食業素人である私は、地道にこういう本を読んで勉強することにしている。


この本を読んだおかげで、何気ない町並みを違う視点で捉えることができるようになった。サイゼリアの正垣さんがおいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」に他社の店舗の視察について

実際に店を視察するときは、「商品」「設備」「作業」「立地」の4分野について、それぞれ100項目ずつ書き出していくことをお勧めする。(P41)」
と書かれていたが、この本にあるような体系的な知識を持つ事がチェック項目作りの前提となるだろう。

さて、この本は立地を考えるための本なのだが著者には売上への影響度を下記のように主張する。

売上=立地(70%)×中身[商品力・営業力](30%)
もし、これが本当だとするとどれだけメニューを工夫したり、集客のための販促活動をしても悪い立地を選んでしまった段階でかなり不利な戦いを強いられることになる。ではそんなことにならないためにどんな観点で立地を考えていけばいいのだろう。

立地について考えるにあたって重要な概念がたくさん紹介されているが、商圏の考え方は飛ばして、実査における3つの重要な概念について紹介したい。


< 実査>
a. TG(Traffic Generator)=交通発生源
筆者のTGの定義は下記になっている。
お金を使おうとしている人がたくさん、それも毎日、違った人が集まる場所(P90)
単に人通りが多いからTGである訳ではない。お金を使う準備のある人の交通を発生させるものをTGという。駅、大型交差点、大型小売店、大型ビルの出入り口などで、自分のお店の売上に大きな影響を与える施設がTGとして該当する。では、たとえばどんな駅でもTGになりうるのか、というそういうことでもない。駅口の数、駅口の使われ方、集中度、ホームから店舗が見えるかなど、観察すべきことは多い。

また、大型小売店が近所にあるからといって必ずそれがTGになっているかというとそうでもない。集客力を知るにはその店の年商を調べるとよいという。

一般的に、年商が、10億円レベルなら、それほど強くはありません(駅から少々離れたところにある小さなスーパーなどが、これに該当します)。そして、20億円レベルな"強い"、50億円レベルなら"非常に強い"と考えてよいでしょう。(P96)
その他交差点、アミューズメント施設、学校、予備校などいろいろなTGに関するチェック方法および大まかな基準が書いてある。この本の特徴としてこの基準を明示しているところに有用性の高さの一つが現れていると思う。

b. 動線(Traffic Line)

次は動線である。著者の動線の定義は下記。
立地で言う「動線」とは、TGがあるために発生する「日常生活行動線」のことを指します。(P112)
動線上にある、とはTGとTGの間や周辺にあって、そこ目指して通行する人が自店舗に来て購買行動を起こしてくれる、ということだ。そして動線上にない物件であってもできるだけ動線に近いほうがよい。
たとえ動線上にない物件であっても、できるだけ動線に近いことが望まれます。具体的には20m以内、どんなに遠くても50m以内です。200m以上離れていると、動線を行き来する人々を引っ張ることが、ぐっと難しくなります。ましてや50m以上離れていると、店の存在にすら気づいてもらえません。(P112)
その他、副動線が狙い目である、とか駅動線(第4分岐点までの間)、駐車場動線はどう見るか、とか購買動線(≒回遊動線)はどのようにできるかというようなことも書いてあるが、一番意外だったのは交通量の多さは動線の強弱にあまり関係がない、ということだ。よく考えてみればそれはそうでしょ、と言いたくなるが物事を単純化して意思決定をしてしまうことは結構多いように思うのでどんなことにも丁寧な観察と考察をすることは大事なんだなー、と改めて思った。

*人は最短距離を歩きたがる

*行動ベクトル(人々の行動を15〜20kmで捉えて全体的にどちらに向かうか)

c. 視界性(Visibility)

著者の視界性に関する定義は下記。
商圏内にいる人の店舗認知に関わる決定的要因を「視界性」と呼びます。視界性とは、人の視点、つまりお客の視点で調べる、「店の見え方の度合」です。(P130)
どんなによいTGが近くにあっても、人から見えなければ存在しないのと同じだ。筆者は下記3つの観点から見え方について考えることを提案する。
1. どんな人から見えるのか2. どんな状態で見えるのか(視界障害、視界融合、視界退行)3. 何が見えるのか(看板その他)
d. 物件そのもの
物件そのものの判断についても下記の基準を提案している。

 1. 建物制約

間口や客席数、店舗面積などの物理的要因のことをさしている。
 2. 店に入りにくくする諸条件
駐輪された自転車など、確かに街を見回してみるとお店を見えなくしたり、近づきにくくするものはたくさんある。
 3. 階層別立地指数
これも本の中には具体的な数値が記載されている。1階に店舗をもった場合の来店客数が100人だったとすると、2階で87人、3階で61人、4階で47人、地下1階で81人、地下2階で56人程度に減ってしまうようだ。特に地下2階や4階では来店客数が半分近くに減ってしまうことに驚く。
 4. 増床による効果の予測
客数は店舗面積に対して増加するという調査結果があるようだ(数字は本の中に記載)。あくまで目安として使われているようだが。

e. 同業店

 1. 同業店が近くにあることのメリットとデメリット
同業店が近くにあることは、顧客が分散したり取られたりするデメリットが頭にすぐに浮かびがちだが、実は競合の存在には市場拡大のメリットがある。これはキャズムでジェフリー・ムーアがハイテク産業については書いていることだが、飲食でも当てはまる。たとえば何か目新しい商品をあなたのお店が持っているとして、新しければ新しいほどその素敵さを伝えるためにプロモーションコストがかかることになる。競合がいる、ということはどうやって食べるのか、どんな味がするのか、どんなお酒が合うのか、どんな栄養成分なのか、など何でもいいがあなたが伝えたいその商品のセールスポイントを自店だけで行うのではなく、競合もやってくれるということだ。プロモーションコストを折半しているような効果がある。・・・とここまでは考えていたのだが、この本のすごいところはそれが具体的にどれくらい影響をするのか買いてあることだ。
一般的に、店舗数をnとすると、1店舗しかない場合に比べて、最低でもルート(平方根)n分だけ、市場が拡大することが知られています。ですから、2店舗の場合は、2のルートで1.4倍、3店舗のときは、3のルートで1.7倍になります。 (P180) 

この本の定石「飲食店の売上貢献度は立地が7割、中身が3割」はおそらく多くの飲食業について正しいのだと思う。ネットによって人を集めることで立地の悪い飲食店でもやっていけるようになったという言説を見る事がある。ただ、この方法の一つの弱点はちゃんとやろうとすると「手がかかる」ということだ。イベントを企画したり、コミュニティを作ったりというプロモーションには多大な時間と労力がかかる。お金を出してポータルサイトに掲載してもらう、ランキングサイトでステマを使う、などのプロモーションは効果性があまり高くなかったり、倫理的な問題からやりにくくなっている。一方SNSなどを活用して徐々にファンを増やしていく、というようなやり方はお金がかからない一方で、時間と手間はかかる。それに比べて立地を良くすることは最初の段階でしっかりと調べておく事でかなりクリアできる。


以上のようなことと、この本が唱えるような定石がどういう関係にあるのか、日々の中でさらに深く思考していきたいが、立地の考え方を体系的に学べたことは非常に有意義だった。これほど重要なKPIが数字で書いてあると、エクセルを使って数字を入力すれば一定の売上予測まで簡単に出せるようなモデルも作れそうだ。


最新版 これが「繁盛立地」だ! ―人が集まる、だから儲かる/林原 安徳

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