2013年5月31日金曜日

飢餓は遠い国の話ではないかもしれない。

食の終焉/ポール・ロバーツ

この本は現在の「食のシステム」が抱える問題を網羅的に説明してくれる。私たちがスーパーで目にする大量の食料やコンビニに陳列され、時間がくると廃棄される食料がどのような仕組みで生産、調達され、その国境を超えた大きな「食のシステム」がどの程度の安定性を持ったものなのかを教えてくれる。食についての「フラット化する世界」みたいな本、とでも言えるかもしれない。



食糧という富を生み出す、ということにおいては、私たちは人類の歴史において最も成功した時代に生きている。しかし市場メカニズムを活用した、その仕組みは実はかなりの無理をこの地球と生産者に強いている。


かといってこの本は、市場メカニズムへの一方的な批判や、テクノロジーへの恐れを煽るような類いの本ではない。ロバーツは世界の食糧生産において市場メカニズムが果たして来た役割や、新しいテクノロジーが人類を飢えや重労働から解放してきたことを一定評価しながらも、「食品の場合、そうしたシステムと製品がうまくなじまないのではないか」という疑問を投げかける。

私たちの経済システムが評価できる製品の属性-たとえば、大量生産性や価格の安さ、均一性、徹底した加工管理といったもの-が、その食品を食べる人にとっても、あるいはそれを消費する文化や生産する環境のいずれにとっても、必ずしも最良のものとは言えないように思えるのだ。—中略—(問題は)「食品の経済的な価値」と生物学的な価値」の間のズレにあるのではないかと言いたいのである。(P24) 
では、どのような問題があるのか?ロバーツは 食品の生産から加工、流通、消費までの大きなサイクルをひとつひとつ説明していく。私たちの手元に食品が届くまで、下記のプロセスがある。
※括弧内は取り上げられて、問題が指摘されている対象

1.  食品の生産(アメリカの農業政策の失敗、モンサント等のバイオ化学メーカー

2.  食品の加工(ネスレやユニリーバなどの食品メーカー)
3.  食品の流通(ウォルマートに代表される流通業者やファーストフード等の外食産業)
4.  食品の消費(私たち)

本の中では、それぞれの段階において各企業や政府が局所的な最適化を図ろうとする行為が全体として如何に不都合な結果を招いているかが紹介されている。


ジャーナリストとしてのロバーツの真骨頂は、それぞれの段階においてはそれぞれの企業や政府が悪者に見えるのだけれど、さかのぼっていくと、その状況を作り出しているのは消費者としての私たちの指向、つまり「安いものほどよく売れる」「見栄えのよい画一的な商品ほどよく売れる」等の市場の力であったということを気づかせてくれることだ。つまり、4つの段階でいうと1.の当事者は2.や4.(私たち)に、2.は3.に、3.は4.(私たち)におもねる存在であるということである。


個々の企業は置かれた状況の中で生き延びるために顧客の要求に応えようと企業努力を重ねてきているにすぎない。(その努力の仕方に改善の余地は多いにあると思うが)しかし、その結果として起きている状況はこれまでの繁栄を無にしてしまいかねないほどの不安定さを生み出した。


現代の不合理で永続性のない食のシステムを作り上げる上で、一番の推進者は私であり、あなただったのだ。

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