2013年5月9日木曜日

人間はどういう時に最も生産的で幸せなのか。

チクセント・ミハイのFlowを機会があって読んでみた。半分仕事で読んだのだけれど、今読んで良かった。Flow理論は他の本で紹介されているのを何度も見かけたのでイメージはあったのだけれど、読んでみると読むべき本だと思えた。

フロー体験 喜びの現象学/ M. チクセントミハイ


この本は、どのようにFlow状態に持っていけばいいのか、というような方法論については述べられていない。述べられているのは「Flowとはどのような状態か」「Flow状態にある人の特徴はなにか」ということだ。その上でどうそれを生活に生かすかどうかは読者にゆだねられている。幸せとは何か、ということを考える人は必ず読んだ方がいいだろう。なぜなら、そうやって考えている間は決して幸せになったりはしないからだ。



たとえば、ナチスのユダヤ人強制収容所を生き延びたフランクルは次のように言っている。 
「成功を目指してはならないー成功はそれを目指し目標にすればするほど、遠ざかる。幸福を同じく、成功は追求できるものではない。それは自分個人より重要な何ものかへの個人の献身の果てに生じた予期しない副産物のように・・・・結果として生じるものだからである。」ビクター・フランクル/「意味の探求」
また、ジョージ・バーナード・ショーは下記のように言っている。
「人生における真の喜びは、偉大だと思える目的のために生きることである。」—ジョージ・バーナード・ショー
実際、私たちの人生は、結構、思い通りにならない。容姿は遺伝的に決定されるし、どう育成・教育されるかは選べないし、生まれた家庭の事情によって経済的にもかなり差がついている。第2次世界大戦の時期には、世界中の多くの人が戦争を選んだわけでもないのに、戦争に関係することを強いられた。人生は外部要因によって決定されるのだと思う人がたくさん存在したとしてもおかしくない。

しかし「自分は外部によってコントロールされているのではなく、自分が自分の行為を統制し、自分自身の運命を支配している」と感じる時、私たちの気分は高揚し、深い楽しさの感覚を味わうようだ。


ミハイは「最適経験」は「困難ではあるが価値のある何かを達成しようとする自発的努力の過程で、体と精神を限界まで働かせ切っている時に生じる(P4)」としている。

決してどこかのリゾートのホテルのプールサイドでカクテルを読みながら読書をしているような瞬間ではない。むしろ「最適経験」の時は快いものと限らず、水泳選手であればぎりぎりのレースの中で筋肉と肺を限界まで使っている時に生じる。つまり、そこにあるのは「極限に近い集中」である。

また、ミハイは「自己目的的パーソナリティ」(内的報酬を最大化できるようなパーソナリティ)の中心的要素を一つだけ挙げるとすれば、「自意識のない個人主義=利己的ではない目的への強い指向性」である、としている。

この傾向のある人々は、あらゆる環境の中で最善を尽くす傾向があるが、基本的には自分自身の利益の追求に関心を持っていない。それは彼らの行為が内発的に動機づけられているからであり、彼らは外部からの脅威によって簡単に不安になったりしないのである。(P117)
では、そうでない人はどうなるのだろう。
自己愛に陥る人は、主に自分の自己を守ることに関心を示すので外的状況が脅迫的になると破滅してしまう。続いて怒るパニックが彼がしなければならないことを妨害し、彼の注意は意識の秩序を回復する努力へと内向し、外の現実と交渉する十分なエネルギーを残さない(P118)
これはまさにセルフエスティームの理論と同じことを言っている。 この状態に陥っている人はアプリケーションを立ち上げすぎたパソコンのOSみたいなものである。意識が様々な方向(人にどう思われているか、など)に向いてしまって、効率が落ち、最悪フリーズする。結果、生産性が極端に落ちてしまう。

また、自分の思考に対する一定の規律を持たないと、我々の脳はどうやらネガティブなことを考えてしまうようにできているようだ。宗教やアート、またはあらゆる類いのエンターテイメントはこれに対する対応策として人類に長く愛されてきたのだと思う。(最近は自己啓発系のセミナーもこの役割を担っている)

思考への秩序の与え方を身につけない限り、注意はその瞬間に最も問題となるものに引きつけられる。注意は実際の、または想像される苦悩や最近の恨み、長期にわたる欲求不満に集中する。(P149)
マネジメントとしてこの理論をどう生かせばいいだろうか?自己目的的なパーソナリティの人間を育成するのに、下記の要素を持つ家庭状況がそれに貢献する、としているがこれはマネジメントにも応用できる。「子供」を「部下」に置き換えて考えると、部下の余計な心理的エネルギーを消費させずに作業に集中してもらえるヒントになる。

<自己目的的家庭状況>

1. 明快さ:目標やフィードバックにおける基準の明確さ
2. 中心化:学歴などより、自分が現在していることや具体的な感情・経験に関心を持っているという子供の認識
3. 選択の幅:子供が結果に対して責任をとる覚悟があるかぎり、幅広い選択の可能性を持っていると感じていること
4. 信頼:子供が自分の心の壁を安心して取り除くことができ、何であれ自分が関心をもつこと没入するようになることを認めてもらえる、と親に対して思える信頼
5. 挑戦:複雑な調整の機会を子供に徐々に課していくという親の働きかけ

そして上記は下記のフロー体験の構成要素と対応している。

<フロー体験の構成要素>
1. 目標の明確さ
2. フィードバック
3.  統制感覚
4. 作業への集中
5. 内発的動機付け

Mihaly CsikszentmihalyiのTEDでの講演



原書は下記

  Flow: The Psychology of Optimal Experience/Mihaly Csikszentmihalyi

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