2013年12月13日金曜日

プライシングを体系的に学ぶ



プライシングに関する本を何冊か読んできたのだけれど、初心者にとってこの本ほど実務的な内容がまとまっている本はないのではないかと思う。すでに知っていることも多いし、感覚的にそれはそうだよね、と言いたくなるようなことも書いてあるのだが、詳細に言語化されているのはすごい。各現象の説明の背後には経済学の理論が使われていることも、この本の分かりやすさに貢献している。研修のテキストが元になっているようだが、この研修を受けさせてもらった人はラッキーだ。また、本の最後にのっている文献も参考になる。


たとえばあなたが何か新しい商品を売り出そうとしていて、そのプライシングに思いを巡らせている時、次の2つの効用があることだろう。


1. これは普通に考えるとやらないほうがいいよね、ということのチェック

e.g. 資本力がないのに低価格戦略で戦おうとする、など
2. コストから考える以外のプライシングについて具体的な設計方法がイメージできるようになる

この本と同じレベルの精度で広告についてもだれか書いてくれないかなー。


ただ、この本に書いてあることはどれもすごく大事なことなんだと思うのだけれど、構造化がされていないため、頭に定着しにくい。したがってこのエントリーでは内容をなんとなくまとめてみる。

この本の扱っている領域は大きく下記4つに分類される。

1.競合との関係

第1章 ポジショニングと価格設定
──どこで 何と比較させるかで価格は変わる

第8章 マーケットでの競争戦略
──値引き競争を避けるベストプライスの見つけ方

理想的な戦略は、競合商品よりやや上質で高価格、または、やや低価格の2種類への「絞り込み」である。(P130)
第12章 バンドリングの技法
──「パッケージ売り」の心理的効果

→パッケージ売りをすることは、下記二つの効用がある
①競合との差別化要因となること
以外に、
②顧客にとって競合との単純比較がむずかしくなること
の効用がある。→4. 顧客の商品あるいはサービスに対する認識をどうコントロールするか

2. 最低価格の価格設定
第2章 原価に基づく試算
──「適正価格」ではなく、「最低価格」を把握する

→これについては特に変動費と固定費を正確にとらえてコストとして反映する必要性が説かれている。考え方としては、
1.1個当たりの基本的な費用(変動費)
2.1年あたりの創業費用の1個当たりの金額(固定費)
3.年間費用(マーケティングおよび諸経費)の1個当たりの金額(固定費)
の合計が最低販売価格となる。決して1. だけではない。 

3.マーケットの捉え方と価格設定における留意点
第3章 顧客心理の読み方
──価格の差別化で顧客の「欲しい」を引き出す
第4章 マーケットのセグメンテーション
──顧客の決定はじつに「不合理」
第5章 バイアスとの戦いと公平さの追求
──マーケットには価格の「壁」が潜む
第6章 記憶と期待
──新商品の価格設定をリフレーミングする


4. 顧客の商品あるいはサービスに対する認識をどうコントロールするか
第7章 アンカリング効果
──価格比較の心理を操作する
第9章 おとり戦略
──非対称の優位性「ボーラーハット理論」を利用する

→ここでは下記二つのおとり戦略が紹介されている。
1.品質×価格でのおとり(ボーラーハット理論=非対称の優位性)
2.価格でのおとり(ゴルディックス効果or限界費用の低減)
第10章 代金の後払い
──支払いがずっと後ならサイフのひもはゆるむ
第11章 ティーパーティー効果
──異なる顧客グループの交流が購買につながる
第12章 バンドリングの技法
──「パッケージ売り」の心理的効果

→パッケージにすることで単純比較が難しくなる。バンドリング(パッケージ化)。商品特性を増やす、ということ。あまりコストのかからない特性や、これまでにない特性を加える。
第13章 無料(フリー)の効用
──「無料(ただ)」ほど素敵な価格はない

→スタンプを事前に3個おしておいて、サンクコストを感じさせる、追加アイテム(送料など)を無料にすることで顧客の意思決定回数を減らす、など。とくにスケールを狙うときの商品を体験してくれる人の絶対数を増やしたいような状況で有効。無料提供で体験者を増やし、そのうちの10%が固定客になってくれれば、と考える
第14章 アップセリング
──価格の高い商品に顧客を誘導する
第15章 提携販売とバリュープライシング

顧客を高額商品に誘導するアッブセリングには2種類の方法があります。ひとつは、商品に対する特定のニーズが強い顧客の購入額を増やす方法。もうひとつは、商品の魅力を高めるために補足的役割のものを提供する方法(P206)
一般的には、前者(強化)よりも後者(補足)のほうがより高い価格設定ができるようだ。ただし、その価格はもともとの商品価格よりも低い場合に顧客は魅力を感じるようだ。 
──高額商品に価格を吸収させる
第16章 他人のお金
──第三者が支払うときの購買心理学

てな感じでかなりてんこ盛りなのだけれど、最後に思ったことはプライシングはあくまでプライシングでしかないのだなあ、ということだ。商品やサービスそのものの力を高めずにいかにプライシングをいじったところで、長期的には勝てないし、なんのために事業をやっているのか分からなくなる。
以前、大変お世話になった方に(お医者様)に「値打ちのあることをしなきゃいかん」と何度も教えてもらったことを思い出した。
値打ちがある、ということは実際に相手にとって役に立つものを、お「値打ち」で提供するということだ。顧客がその商品に対して「払ってもいいよ」と思ってくれる値段より多くを提供すること。そう感じてもらうこと。
どうせ人生の中の多くの時間をそれを費やすなら、社会とお客さんにとって本当に「値打ち」のあるものを、作る。社会を前進させる仕組みを作る。そのことをやりたい、と改めて思った。

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