2015年4月6日月曜日

模倣は企業戦略・戦術の中心になってることが多い

コピーキャット:模倣者こそがイノベーションを起こす / オーデッド シェンカー

飲食業は模倣を前提として成り立っている。本当にオリジナルな素材の組み合わせとレシピでできた料理というのは、ほとんどないだろう。海外で日本食を展開する、というようなモデルは当然だし、競合店同士がお互いをベンチマークしあって、切磋琢磨している行為そのものが模倣によって成り立っていたりする。レシピや提示方法の「コピー」が法的に規制できないのはファッション業界とも似ている。そしてすべてのレシピが長い人間の歴史の中での食文化の蓄積の結果として成り立っていることを考えると、レシピの模倣行為そのものが食文化の発展の過程なのかもしれない。(投資として見た時の飲食業の生産性の低さにはこのことが深くかかわっていると思うが、これについてはまた別の機会に)

この本は、その「模倣」という行為を企業戦略の中心として捉えて解説した本である。そしてその模倣を「うまくやる」ことこそが大切で、イノベーションとはその模倣によって生まれるのだとする。で、そのことをイモベーションと呼んでいる。

イミテーション(模倣)+イノベーション=イモベーション

そして企業にとってより模倣が重要になってきている背景として、グローバリゼーションとアウトソーシングの進化によって競争者が増加、多様化する一方で、情報コストの低下により知識の形式知化が進んでいること、また企業間の提携や社員の移動によって、その移転がさらに容易なっていることを上げている。そして一方で、ブランディングの効力や特許等による形式知の保護は難しくなっている。

これはしごく当たり前のことのように聞こえる。一方、これに真っ向から反対するコメントをジェフ・ベゾスがしていた。ベゾスは明確にコピーをすることの重要性を認識している。World Changers: 25 Entrepreneurs Who Changed Business as We Knew It の中で彼は次のように言う。
We have always had the mentality that we are going to be obsessed over our customers and not obsessed with our competitors. There are many advantages to being a competitor -focused company. You can pursue a close-following strategy. You don't have to go down a bunch of blind alleys when you are inventing. You can just follow the leader. Let them spend all the investment resources to go down the blind alleys and when they do something that works you can follow them quickly. That can be an effective business strategy but that is not what we do.
  このように、本書の著者の意図をしっかりと理解した上で、しかしそれでも下記のように彼は言うのだ。
If you base your business strategy on things that are going to change, then you have to constantly change your strategy. But if you formulate your strategy around customer needs, those tend to be stable in time.(p67) 
これはアマゾンが必ずしも模倣をしていない、ということではない。彼らが生み出すサービスは同じようなサービスを提供している企業のサービスをベンチマークしているし、模倣もしているだろう。しかし、経営者の態度というか情熱としてどういう企業を作るのか、どういう勝ち方をしたいのか、という動機の違いが最終的な企業のあり方に大きく影を落とすのだなあ、ということを彼のコメントを見ながら思わずにいられない。


以下、メモ。


<事業アイディア>
過去30年間に、アメリカで大きな価値を創造した事業のアイディアは、突き詰めれば、次の4つに収斂されるとする(P26) byブーズ・アレン・ハミルトン/ランダル・ローゼンバーグ
1.パワーリテイリング(ホーム・デポのような大規模小売店)
2.メガ・ブランディング(ディズニーに見られるアンブレラ・ブランディング)
3.集中化・簡素化・標準化(マクドナルドに見られるプロセスの簡素化)
4.バリューチェーンの迂回(アマゾン・ドットコムに見られる中間業者の排除)

<模倣のアプローチ(P109)>
複製、既存のモデルの拡張、差別化、移植、再結合

<模倣の成功と失敗(P109)>
模倣の成功のためには、因果関係を解明し、対応づけの問題を解決する必要がある。失敗するケースでは、自社の既存のモデルと模倣対象のモデルを併存させようとする、相容れないモデルを結合しようとするなど、真の模倣に及ばない単純な模倣にとどまっている。

<企業に必要な6つの模倣能力(P111)>
1.模倣の心構えを万全とする
模倣を受け入れるだけでなく、模倣をイノベーションと同じように高く評価して奨励する文化や意識を作る
2.模倣対象を参照する
模倣する価値がありそうなモデルを特定し、ターゲットに設定する能力
3.情報を探索し、標定し、選択する
模倣する価値のある製品、プロセス、サービス、慣行、アイディア、モデルを探し、可能性を見極めて、選択するスキル
4.対象の脈絡を理解し、自らに適用する
関連性のある環境要因を特定し、原型モデルと模倣をそれぞれの状況に埋め込まれたものとして捉えるスキル
5.対象に深く潜り込む
単に相関関係を分析するにとどまらず、対象に深く潜り込んで調査し、複雑な因果関係を把握する能力
6.模倣を実践する
模倣する要素を素早く効果的に吸収、統合、配置し、実務レベルに落とし込む能力

<タイミングに関する戦略上の選択(P150)>
1.ファスト・セカンド(迅速な二番手)
パイオニアのすぐあとに続く
2.カム・フロム・ビハインド(後発追撃者)
強力な差別化要因を使って最初の模倣者の後を追う後発参入者
3.パイオニアインポーター(先駆的移植者)
別の時期、国、産業、異なる製品市場などの別の領域に最初に参入する。市場の差異を利用して利益を上げる裁定取引(アービトラージ)戦略ともいえる。

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