2014年2月20日木曜日

人生を組み立てるための戦略論

世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう・奥山真司

「戦略論の原点」がとてもよかったので、久しぶりに奥山さんの本を買ってみた「戦略論の原点」ほどの感動はなかったのと、戦略論のエッセンスを集めた本(それがこの本の良さなのだが)であるため、思考の深さのようなものをあまり学習することができなかった。戦略論の原点を読んでしまっていたために、新しい発見もあまりなかった。 よく言えば、身近な事例で戦略論について非常にわかりやすく理解できるのだが、悪く言えば居酒屋談義っぽさがあるという感じだろうか。


それにしても奥山さんのこの領域の翻訳本の多さは驚きだ。日本には他に人材がいないのか、とも思うのと同時に奥山さんのこの分野に対する情熱のようなものを感じる。


さて、この本は戦略論を使って人生や事業をどう考えたらいいのか、という本だ。

<あなたが幸せでない根拠をどこのレイヤーに置くか>
人生に完璧に満足している人は少ないだろう。不満は原動力でもある。では、その不満の原因をあなたはどこに求めているだろうか。奥山さんはケネス ウォルツの理論を使って3つのレイヤーを提示する。そしてどんな状況にも自分に原因を求めること(ファーストイメージ)こそが希望であると説く。

<ケネス ウォルツの3つのイメージ>

3. サードイメージ:
すべては「環境」が原因であるという考え方(時代、政治、景気、自然環境、土地など)
2. セカンドイメージ:
すべては「組織」が要因であるという考え方(国、官僚、会社、部署、学校、家族など)
1. ファーストイメージ:
すべては「あなた」が原因であるという考え方(人間の本質、人間の性、自己責任、自分中心、我など)

ファーストイメージで世界をとらえることができる人は幸せな人だ。この記事(人間はどういう時に元も生産的で幸せなのか。)で触れた「自己目的的パーソナリティ」とはまさにこのことを言っている。
私たちの人生は、結構、思い通りにならない。容姿は遺伝的に決定されるし、どう育成・教育されるかは選べないし、生まれた家庭の事情によって経済的にもかなり差がついている。第2次世界大戦の時期には、世界中の多くの人が戦争を選んだわけでもないのに、戦争に関係することを強いられた。人生は外部要因によって決定されるのだと思う人がたくさん存在したとしてもおかしくない。
しかし「自分は外部によってコントロールされているのではなく、自分が自分の行為を統制し、自分自身の運命を支配している」と感じる時、私たちの気分は高揚し、深い楽しさの感覚を味わうようだ。(
http://managementxyz.blogspot.ca/2013/05/blog-post_9.html)

過去に盛り上がったノマド論争なども、この視点で考えな直すとよく理解できる。ノマド推進派がファーストイメージを持つのに対し、ノマド反対派の議論はサードイメージおよびセカンドイメージの世界観を持っている。違うレイヤーで話をしているので、両者がかみ合わないのも当然だ。

<戦略の階層を人生に適用する>

著者は戦略の階層を使って、人生や事業を説明する。これ自体はすごくわかりやすい。一方で「ビジョンが大事」系の話とかなり似てしまっているが、階層で表現することで見えてくるものもある。それは階層で表現することで、自分たちの現状を分析しやすくできることだ。「ビジョンが大事」として素晴らしいビジョンを持った会社の事例を知ることは確かに役に立つのだが、自分の事業に当てはめるという思考には使いにくい。一方、階層で示すことができれば自分のケースにあてはめやすい。理論化・モデル化することの利点だと思う。


世界観(Vision);企業イメージ、存在意義など
国家政策(Policy);業界における社会的意識、社会貢献など
大戦略(Grand Strategy);資金管理、システム管理など
軍事戦略(Military Strategy);デザイン戦略、流通コントロールなど(手に取れないもの)
作戦(Operation);カスタマーサービス、人事オペレーションなど
戦術(Tactics);販売/ 営業マーケティングなど
技術(Technique);商品開発、コンテンツ開発など(手に取れるもの)

では、これをさらに仕事と役職に当てはめると下記のようになる、という。

世界観(Vision);会長/社長レベルの仕事(自身のキャラクターや人格・生き方など)
国家政策(Policy);社長レベルの仕事(会社全体の方向性作り、業界全体の見通しなど)
大戦略(Grand Strategy);COOレベルの仕事(資金配分、人事の配分など)
軍事戦略(Military Strategy);部長レベルの仕事(部全体としての売り上げ管理、プロジェクト全体の統括など)
作戦(Operation);課長レベルの仕事(売上の達成プラン、プロジェクトの管理など)
戦術(Tactics);PJリーダーとしての仕事(チームとしての戦い方、部下の育成など)
技術(Technique);メンバーとしての仕事(最低限のマナー、仕事のスキル)

*これについては下記の本のほうがイメージがつかめる。大企業において具体的に役職が上がるについれて、どのような仕事内容の変化が起きるのか、起こさないと役職を上げていけないのかがよくわかる。

リーダーを育てる会社 つぶす会社 グロービス選書/ラム・チャラン


「環境を作り出す欧米人、環境を受け入れる日本人」

著者は日本人は戦略の下層が得意で、欧米人は上層が得意だとし「モノづくり立国」とか言ってるとほんとまた負けますよ、という指摘をする。技術で戦うのは下策とする。
サムスン以外にも、現代自動車などを見ると、車そのものの性能よりもデザインのほうに力を入れていて、それで売れているところがあります。これは抽象度の高いリベラルアーツで差をつけているのです。たとえば、モーツァルトを超える作曲家がも300年間くらい出ていないように、抽象度の高いデザインやアートでは永遠に勝てる可能性が高いわけです。ポルシェ911も、デザインはかなり長い期間にわたってあのカエルのような形のままです。ですから究極のデザインというものは、永遠に勝てる可能性が高いのです。これはジャガーやBMWにも同じことが言えます。(P117)
うーん。。これについては家電と車という違うものが同列に並べてあるのだけれど、すこし気持ちわるい。なぜなら、家電やスマホ、PCについてはむしろデルやアップルの下請けで成長した台湾などの企業のことを考えると製造の方が難しくてデザインは真似しやすい、という議論もあるからだ。

逆に車と家電やスマホの違いを考えてみると面白いのかもしれない。なぜスマホで起きたことが車で起きないのか。安全がより大事であるから、とか車はすり合わせの技術だから、とかいう理由はあると思うけれど、戦略の階層で考えたときにどう違うのかを時間があるときに少し考えてみよう。

どちらにしても著者の洞察は下記の記事で指摘されているような、戦略的な視点の低さがスケールの小ささや社会に対する影響力の小ささにつながり、ひいては事業およびその先の産業の成長に大きな影響を与えることを日本と欧米の比較において書かれている。定量的な考察ではないが、とても大事な指摘だと思う。

―「マネタイズはどうやるの?」と尋ねるのはもう止めて

http://www.seojapan.com/blog/do-not-ask-monetization
(マネタイズ手法はコモディティ化されてるから、そんなことより「この製品は、1億人のアクティブユーザーを引き込み、維持することができるのか?」の方が大事でしょ、という指摘)

 ― 日本でイノベーションが生まれにくいと思った3つのポイント
http://blog.btrax.com/jp/2013/03/03/jp-trip/
(日本のスタートアップ界隈では「どれだけ儲けるか」が評価されるのに対し、アメリカでは「どれだけ面白いことをやってみせるか」が大事、という違いがあるよね、という指摘)

この本を読んでいて、トロントのラーメン市場に感じていた違和感が言語化できそうなので次の記事で書くことにする。

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